オーディオドラマ「五の線3」
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Latest episodes
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210 最終話「五の線」
October 4, 2025 · 17 min3-200.mp3古田が亡くなって、まもなくひと月が経とうとしていた。午後の陽が差し込む駅近く。木造二階建てのアパートの前に、森はひとり立っていた。引き渡しは今日。部屋の中に残っていた遺品は、すでに古田の娘がすべて引き取っていった。小さな郵便受けの名札には、まだ「フルタ」の名前が貼られたままだった。ドアの前で、森は立ち止まり、そっと呟いた。「……トシさん」その声は風にさらわれ、誰の耳にも届くことはなかった。「……私、怖いわ……」目を伏せ…
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210 第199話「沈黙を編む手」
October 3, 2025 · 16 min3-199.mp3音楽堂の裏手――濁流がかすめた低地に、まだ泥の匂いが残っていた。京子は、崩れた階段の縁に腰を下ろしていた。脚には乾きかけた泥がつき、掌には黒いスマートフォンが握られている。画面は割れていたが、電源は入る。その端末は、相馬の遺品だった。押収されていたその携帯が、自分のもとに戻ってきたのは、ほんの数十分前のことだ。ーーー背後に気配を感じた。振り返らなくても、足音で誰かは分かった。「……冷えるな。」父の片倉肇だった。二人の間…
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209 第198話「水の檻」
September 19, 2025 · 20 min3-198.mp3雨は弱まる気配を見せず、泥水はゆっくりと、だが確実に音楽堂の階段を飲み込もうとしていた。仁川征爾と片倉。その間に流れていたのは、ただの水ではない。泥濘に沈んだ死者たちの重みと、ぶつけられることのなかった問い、語られなかった復讐。睨み合う両者の呼吸だけが、時の進行を遅らせていた。拳銃にかけた手が、片倉の腰で静かに止まっている。仁川の指も、拳銃のグリップから外れない。――張り詰めた均衡。だが。その均衡が、ある足音によって、…
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208.2 第197話「濡れた獣」【後編】
September 5, 2025 · 17 min3-197-2.mp3濁流が足首から脛へと水位を上げる中、音楽堂の前では自衛隊と消防、警察機動隊による救助活動が次の段階へと入ろうとしていた。避難者の大半は地上へと搬出されつつあり、ゴムボートは最後の巡回に入り、担架も尽きかけていた。誰も気づかない、雨の帳の奥――濡れた舗道の向こうから、一つの影が水を踏んで歩いてきていた。ざぶ……ざぶ……それは“ゆっくり”だった。焦る様子はない。疲労の色も、躊躇もない。ただ、決定された一歩を順番通りに進…
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208.1 第197話「濡れた獣」【前編】
September 5, 2025 · 8 min3-197-1.mp3一発の狙撃が、戦場の均衡を崩した。プリマコフ中佐の体が膝をつき、泥濘に崩れ落ちたその瞬間、まるで濁った水の上に立つ紙の塔のように、人民軍部隊の指揮系統は一気に瓦解した。ドームの骨格だった鉄骨の影から、散開していたツヴァイスタン兵たちが一斉に動きを止めた。彼らが見ていたのは、倒れた男の背ではない。崩れた「秩序」そのものだった。一人、また一人と銃を捨てる音が聞こえる。命令は来ない。誰が敵で、誰が味方かも、もうわからない…
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207.2 第196話「還るもの」【後編】
August 22, 2025 · 17 min3-196-2.mp3(……来たのか)椎名の胸の奥で、何かが軋むように揺れた。(……来るべきじゃなかった。)ボストークで、ちゃんフリで、軽く冗談を挟みながら、過剰な距離も取らずに接してきた彼女。女でもなく、敵でもなく、“ただの相棒”として、淡々と接してくれた存在。(……お前は俺を“人間”として扱ってくれたっけ…)濁った水音の中で、椎名の視線が、京子から離れなかった。一歩前に踏み出した彼女の姿が、波紋を生んだ泥濘に揺れる。その目は焦点が合…
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207.1 第196話「還るもの」【前編】
August 22, 2025 · 11 min3-196-1.mp3水位が足首を超えた。金沢駅東口へと続く歩道は、すでに道路の面影をなくしていた。下水は逆流し、泥と瓦礫が浮遊し、ゴミ袋と共に正体不明の有機物がぷかぷかと水面を漂っていた。普段なら観光客や通勤客でごった返していた広場は、まるで水底に沈んだ空虚な箱庭のようだった。片倉京子は、足を止めた。深く、ひと呼吸。ザバ……と脛が水面を割る。振り返る者など誰もいない。あたり一帯は緊急安全確保措置で封鎖され、人影はない。いるのは彼女一人…
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206.2 第195話「生者の義務」【後編】
August 8, 2025 · 15 min3-195-2.mp3大型のモニター群には、浅野川流域の濁流、金沢駅東口の冠水、そして各部隊の無線通話ログが並んでいた。警報の断続音のなかで、状況監視班のオペレーターたちは端末に次々と入力を走らせていた。その中央――防衛班長・佐藤陸将補が、報告書類を片手に首を上げる。「金沢駅周辺、第14普通科連隊・川島一佐からの現地報告。人民軍の指揮系統は既に崩壊。武装集団の戦力も散発的。現在、戦術目標の終了とともに、音楽堂地下に取り残された民間人の救…
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206.1 第195話「生者の義務」【前編】
August 8, 2025 · 16 min3-195-1.mp3豪雨は容赦なく降り続き、金沢駅東口広場はまるで沈みゆく盆地のように水が溜まり始めていた。もてなしドームの残骸が打ち捨てられ、プリマコフ中佐率いる人民軍部隊は、破壊されたオフィスビルの軒下に展開していた。黒木為朝特殊作戦群群長は、防弾ベストの上から無線を握った。濡れた戦闘服から水が滴る。冷たい雨は、もはや兵士たちの動きすら鈍らせていた。「――群長、プリマコフ中佐の位置確認」「距離420。座標は東口広場、赤い瓦礫の残骸…
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205.1 第194話「豪雨接敵」【前編】
July 25, 2025 · 13 min3-194-1.mp3静寂が包む一角で、椎名は唐突に顔をこわばらせた。瞳はどこか遠くを見ていた。濡れたビルの廃材も、崩れかけた天井も目に入っていない。いや、見えているのに、意識はそこにはなかった。その視線の先にあったのは、己の掌に収まる黒い端末。突如、ビリビリと震え、けたたましい電子音を響かせる。──テロテロリーンテロテロリーン──反射的に全員が動いた。椎名は身を強ばらせ、吉川は銃口を構え直し、黒田は一歩下がって壁に手をついた。コンクリ…
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205.2 第194話「豪雨接敵」【後編】
July 24, 2025 · 9 min3-194-2.mp3金沢駅構内。アルミヤプラボスディア残党は特殊作戦群によってすでに追い詰められていた。黒い戦闘服に身を包んだ特殊作戦群の隊員が、サイレンサー付き短機関銃を携え、柱の陰から一人、また一人と狙撃していく。音は小さい。しかし命の消える音だった。「クリア!」報告が飛び交う。その瞬間、ガラスの破片とともに複数の閃光弾(フラッシュバン)が投げ込まれた。プリマコフ部隊だ。「伏せろ!!」轟音と閃光。一瞬視界が白く染まり、耳鳴りが世界…